【シリアの弾圧】流血停止に猶予はない
2012年02月07日08時23分
シリアで反体制デモへの弾圧が強化される中、国連安全保障理事会でアサド政権を非難し暴力停止を求める決議案が否決された。ロシアと中国が拒否権を行使したためだ。
昨年3月に始まった反政府デモ弾圧による死者は、国連推計で5400人を超える。3日には反体制派の拠点がある都市ホムスで、政権側の砲撃により、一度の攻撃としては最悪規模の260人超の市民らが犠牲になったといわれる。
国際社会が一致結束して、一刻も早く暴力を止めなければならないときに、決議の否決は残念だ。中ロは昨年10月にも経済制裁の決議案に拒否権を行使しており、その態度は理解に苦しむ。
安保理はまたも機能不全を露呈した。アサド政権による血の弾圧はさらに長期化し、一層強化される恐れもある。
シリアはロシアが輸出する武器の7%を購入している。シリアにはロシア海軍が使用できる基地があり、両国は軍事的な関係が深い。背景には、3月の大統領選で復帰をもくろむプーチン首相の意向がありそうだ。
一方、国内にチベット問題などを抱える中国も、人権の問題では「内政干渉」反対の立場だ。
だが人道上、見過ごせない事態が進行しているというのに、自国の事情や思惑を持ち込めば、国際平和と安全の維持を担う安保理の責任は果たせない。このままでは常任理事国が拒否権を乱発し合った、東西冷戦時代に逆戻りだ。
弾圧が長引いている間に、シリア市民には別の危機も忍び寄っている。シリア正規軍を離反した兵士らが「自由シリア軍」を結成し、ゲリラ戦を展開している。本格的な内戦になれば、市街戦や住宅地への砲撃などで、さらに犠牲者の数が膨らみかねない。
決議案の否決で、これ以上の流血に歯止めをかける方策の一つは遠のいた。しかし国際社会の大半はアサド政権を批判しており、安保理の枠外であってもシリアへの圧力を強めていく必要があろう。
アサド政権は中ロの拒否権行使による決議案否決を、弾圧強化への「免罪符」のように利用してはならない。そのような国の指導者は、遅かれ早かれ悲惨な末路をたどるのが「アラブの春」だ。暴力の即時停止を求める。