復興外交 停滞終わらせ前進させよ
2011年5月30日 11:00 カテゴリー:コラム > 社説
「すべての首脳から震災、津波にお見舞いの言葉をもらった。あらためて世界各国との絆の強さを感じた」
フランスのドービルで開かれた主要国首脳会議(G8サミット)に出席した菅直人首相は、閉幕後の記者会見で会議をこう総括した。
菅首相はサミットで主要国の首脳たちに向けて、東日本大震災からの復興への決意を語った。さらに期間中、米国のオバマ大統領、ロシアのメドベージェフ大統領らと個別に首脳会談も行った。
先週、東京で開いた日中韓首脳会談とも併せ、震災や福島第1原発事故への対応に忙殺されて停滞していた対外関係を、この機に「復興外交」として再起動させようという意思が感じられる。
一連の会議や会談では、日本側が原発事故への対応を説明し、各国が復興に取り組む日本への支援を表明した。首相が「絆の強さ」と表現したように、今回の復興外交で、日本に対する各国の連帯を確認することができた。
しかし、震災以前から続いている外交課題については、全くといっていいほど進展がなかった。
象徴的なのは日米首脳会談だ。
会談でオバマ大統領は、菅首相に対して、9月に訪米を招請することを申し出た。当初調整していた「今年前半」からの先送りである。米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)移設問題が混迷を続け、首相が訪米しても進展が望めないことが先送りの主な理由とみられる。
会談では普天間問題で、昨年5月の日米合意に基づく県内移設方針の堅持を確認した。また環太平洋連携協定(TPP)参加問題に関し、菅首相は「早期に結論を出す」と米国側に明言した。しかし、いずれも国内調整の見通しは立っていない。訪米先送りは、米側が震災対応批判で政権基盤が揺らぐ菅首相の先行きを見極めようとしたとの観測さえある。
日ロ首脳会談では、昨年11月のメドベージェフ大統領の国後島訪問以降、断続的に続くロシア政府要人による北方領土訪問について、菅首相が遺憾の意を表明した。これに対し、大統領は「両国の話し合いを静かな雰囲気の中で行っていくことが大事だ」と、いつも通りの表現で応じるにとどまった。
日本政府が震災と原発事故対応に追われている間も、国際情勢は刻々と動いている。今回のサミットでは、世界経済をめぐって、ギリシャやポルトガルなど欧州の財政危機とともに、日本の震災復興と財政再建問題がリスク要因として挙げられた。同情を寄せてもらう一方で、厳しい目も向けられている。
震災からもうじき3カ月を迎える。これ以上の外交の停滞は許されない。
震災対策も大変だが、政府が内向きのままでは困る。震災で強まった諸外国との絆を、懸案事項を動かすテコにするくらいのしたたかさがほしい。世界は、いつまでも日本を待ってくれない。
=2011/05/30付 西日本新聞朝刊=