原発政策 世界に説明責任負う日本 東日本大震災

2011331 10:47 カテゴリー:コラム > 社説

東京電力福島第1原子力発電所の事故が、世界を大きく揺るがしている。

ドイツでは南西部の州議会選挙で与党が惨敗し、「反原発」を掲げる緑の党が躍進した。選挙期間中に福島第1原発事故が発生し、原発政策が最大争点になっていた。メルケル政権は昨年、既存原発の稼働年数を延長する計画を決めていたが、反原発の世論を受けて、エネルギー政策の抜本的見直しを迫られる。

世界で最も多い104基の原発が稼働している米国でも、不安が広がっている。特にニューヨーク市近郊にある原発は、半径80キロ以内に2千万人以上の人口を抱えており、福島原発事故のような住民避難が極めて困難だ。近くに断層が見つかったこともあり、運転停止も視野に入れた再評価を求める声が出ている。

米国のスリーマイル島原発事故(1979年)や旧ソ連のチェルノブイリ原発事故(86年)を受け、欧米諸国では一時期、「反原発」「脱原発」の動きが広がった。だが近年、地球温暖化が問題化するにつれて原発が再評価され、原子力ルネサンスと呼ばれる現象を生んでいた。オバマ政権も温暖化対策として、原発建設を推進する方針を表明していた。

日本原子力産業協会の資料などによると、世界では432基の原発が運転中だ(2010年1月現在)。建設中の原発は66基、計画中が74基に上る。特にエネルギー需要の急増が見込まれる新興国で、新規建設に向けた動きが活発だ。

中国は3月の全国人民代表大会で、原発の発電量を現在の45倍にすることを盛り込んだ5カ年計画を採択したばかりだが、早くも国務院常務会議が新規原発建設承認の暫定停止を決めた。

福島第1原発の事故により、事故の直接的な危険に加え、避難住民や企業の活動停止への補償、長期の経済活動全体への悪影響など、原発が抱える潜在的リスクの巨大さが明らかになった。世界で脱原発の流れが強まるのは必至だろう。

しかし、石炭、石油などの火力発電に回帰すれば、地球温暖化を加速させる恐れがあり、また別の地球的危機を招きかねない。風力、太陽光などの分散型・再生可能エネルギーは、新興国の経済成長を支えるには力不足の感がある。

原発の安全性を強化するか、火力発電に戻るか、費用をかけて代替エネルギー開発に向かうか。日本はもちろん、世界中の国々が難しい選択を迫られる。

日本は国際社会に向けて、今回の事故の全容のみならず、政府や自治体の対応やそれにかかったコスト、さらに中長期的な健康被害や経済影響の見通しまで、情報を全面的に公開しなければならない。各国がエネルギー政策を論議するうえでベースとなる重要な情報である。

 いまの事態の収束責任だけでなく、その後も日本は説明責任を負っている。

2011/03/31 西日本新聞朝刊=