メア氏発言 沖縄の怒りに火を付けた
2011年3月9日 10:49 カテゴリー:コラム > 社説
前の駐沖縄米総領事で、いまは米政府の対日政策の実務責任者である国務省日本部長の発言とはとても思えない。
伝えられている一連の発言内容が事実だとすれば、沖縄を差別・愚弄(ぐろう)し、そこに住む人々の心を踏みにじるだけではない。日本に対する侮蔑である。
在日米大使館がいくら「米政府の見解を反映していない」と釈明しようとも、こんな発言をする人物が対日外交の第一線の責任者を続けるなら、築き上げてきた日米の友好と信頼は崩れる。
米政府には、発言の主であるケビン・メア日本部長の早急な解任を求めたい。発言撤回や個人的な謝罪で済むものではない。日本と沖縄に対する米政府の基本認識と姿勢が問われている。
メア氏の発言は昨年末、沖縄を含む日本を訪問する米大学生らに国務省内で行った講義の中で語られたものだ。講義を聴いた複数の学生がメモを基に作成した「発言録」で明らかになった。
それによると、メア氏は日本の和の文化や合意文化を説明する中で「日本人は合意をゆすりの手段に使う。合意を追い求めるふりをし、できるだけ多くのカネを得ようとする」と述べた。
そのうえで「沖縄の人は日本政府に対するごまかしとゆすりの名人」「ゴーヤーを栽培しているが怠惰だ」などと、沖縄を侮辱する発言を繰り返した。
さらに、米軍普天間飛行場について「世界で最も危険な基地というが、沖縄の人たちはそれが本当ではないことを知っている。(住宅地に近い)福岡空港や伊丹空港だって同じように危険だ」との持論を披露したという。
普天間返還・移設交渉の米側の実務担当者である国務省の部長が、普天間返還の日米共通認識である危険性を軽視するのなら、日米交渉の根底は崩れる。
1996年に日米が合意した普天間飛行場返還の意義、その後の移設交渉の経過と歴史をも否定するものだ。外交上、日米の信頼を揺るがしかねない深刻な発言である。それ以前に、沖縄の願いと努力を踏みにじる暴言である。
80年代から在日米大使館に勤務し、福岡や沖縄で領事経験がある知日派外交官だが、日本で何を学んだのか。伝えられる発言が事実なら、その沖縄観、日本観はゆがんでいると言わざるを得ない。
発言が報じられた翌日、沖縄県議会は全会一致で「県民を愚弄するもので断じて許せない」との抗議決議を可決した。那覇、浦添両市議会は謝罪と発言撤回に加え、メア氏の日本部長辞任を求める決議を行った。怒りは当然である。
解せないのは日本政府の反応の鈍さである。官房長官が「事実なら容認しがたい」として駐日米大使に電話で抗議したが、それも日米関係への悪影響を懸念した大使からの要請に応じたものだ。
米側に事実確認を促し、対応を迫ることができないようでは、菅政権は米政府からも沖縄からも見放される。
=2011/03/09付 西日本新聞朝刊=