調査捕鯨中止 継続するための策が要る
2011年2月25日 10:43 カテゴリー:コラム > 社説
米国の反捕鯨団体「シー・シェパード」の激しい妨害で、日本が南極海で実施していた今季の調査捕鯨が中止に追い込まれた。鹿野道彦農相は「乗組員と調査船の安全確保のためやむを得ず、切り上げることにした」と説明した。
シー・シェパードの妨害活動は2005年から続いているが、政府が調査捕鯨の打ち切りを決めたのは初めてだ。
日本の調査捕鯨は、国際捕鯨取締条約に基づき、国際捕鯨委員会(IWC)の加盟国に認められた正当な権利である。かつ、鯨の生態や資源状況などの科学研究を目的にした日本の調査は、IWCの科学委員会でも評価されている。
法と科学にのっとる活動を実力で阻止するのは言語道断である。まして、人命を脅かす暴力は断じて許されない。
一方で、シー・シェパードは年々、新手の手段を投入し、その妨害活動は過激さを増すばかりだ。無法な攻撃で人命が危険にさらされていたのなら、政府の中止決断はやむを得ない判断だろう。
ただ、国際社会に「日本は暴力に屈した」という誤ったメッセージを与えるとの批判もある。その意味で、枝野幸男官房長官が来季以降も南極海で調査捕鯨を継続する方針を示したのは当然だ。問題は、どうすれば日本の合法活動が安全に続けられるか、その対策である。
政府は、シー・シェパードの妨害船の船籍国や寄港国のオランダやオーストラリア、ニュージーランドに再発防止の措置を求めた。これまでも再三申し入れてきたが事実上、野放し状態である。
政府は、この3カ国に米国を加えて、妨害活動への実効性ある取り締まりや防止策を早急に協議すべきだ。いずれも反捕鯨国だが、反暴力で歩調が合わせられるよう協力を求めてもらいたい。
国際社会に対しても、鯨の資源管理に必要な科学的データを収集する調査捕鯨の意義を訴え続ける必要がある。
捕鯨の是非は本来、IWCで議論する問題だ。昨年の総会では、日本の調査捕鯨を大幅に縮小する代わりに、日本の沿岸捕鯨を容認する議長案を協議した。
日本は受け入れる姿勢を示したが、オーストラリアなどが南極海での捕鯨全廃を求め、合意できなかった。10年間の暫定措置だが、政府はこの線で反捕鯨国に歩み寄りを働きかけるべきだ。
捕鯨問題は単に鯨の問題ではない。大量の魚類などを捕食する鯨類を頂点とする海洋生態系の保全や、世界の食料資源の問題として議論を喚起したい。
調査捕鯨の経費の大半は、副産物である鯨肉の販売で賄っている。近年は妨害で捕獲数が減り、需要の低迷もあって財政的にも厳しい。消費の不振は商業捕鯨が一時停止された影響が大きい。鯨肉の味を知らない若い人たちにも、食べてもらえる知恵と工夫が求められる。
日本の悲願である沿岸捕鯨の復活は、捕鯨技術の継承や食文化の伝統に関わる。これも内外に訴えていきたい。
=2011/02/25付 西日本新聞朝刊=