福島県「脱原発」 世界的な論議に広げねば

 

 「福島が脱原発と言わないでどこが言うのか。世界中が注目している」「原発への姿勢を明確にしないと復興ビジョンは始まらない」。委員たちは力を込めて語ったという。

 

 福島第1原発の事故を受け、復興の考え方を福島県に提言する有識者会議「復興ビジョン検討委員会」が基本理念の原案を取りまとめ、柱に「脱原発」を打ち出した。

 既に廃炉が決まっている第1原発1~4号機に加えて5、6号機、さらには第2原発も含め県内に立地する合計10基の原発全てを廃炉にすべきだとの意思表明である。

 福島県民、全国の原発立地自治体、そして世界への問い掛けであり、呼び掛けであろう。

 原発で大事故が起きれば、放射能汚染は地元にとどまらず、全国、地球規模へと拡散する。

 検討委の間からは「知事にはビジョンを国連や国際原子力機関(IAEA)などに届けてほしい」と国際社会への発信を求める声も出た。

 検討委は7月末に最終提言を行い、県はこれを踏まえて年末までに具体的な復興計画を策定する段取りだ。

 ところが、佐藤雄平知事は「脱原発」を柱に据えた今回の基本理念案に対してコメントを避けた。

 事故後、佐藤知事は東電や国に対し「裏切られた気持ちでいっぱいだ。県民の怒りと不安は頂点に達している」と憤りをあらわにしていた。

 福島原発に関しては、4月に県庁を訪れた東電の清水正孝社長に対して「再開なんてあり得ない」と伝えた。

 だが、この範囲が第1原発5、6号機や第2原発を含むのかが判然としない。会見などでも「事態の一刻も早い収束を」と述べるにとどめている。

 佐藤知事が胸の内に秘めているものは何なのか。

 福島原発では東電や協力会社の社員ら約1万人が雇用され、家族を含めれば約3万人の生計を支えてきたとされる。地域は電源3法交付金や核燃料税、固定資産税などの膨大な原発マネーにも頼ってきた。

 しかし、原発マネーは地域づくりに貢献するどころか、安易なハコモノ行政に注ぎ込まれた。その維持費が財政を圧迫しているのが実情だ。

 原発が生み出す雇用といっても、事故で一時約10万人が避難し、農地や工場などが汚染され、自殺者まで出して何の雇用だろうか。

 脱原発を掲げた基本理念案の問い掛けを、福島県のみならず日本全体が真摯(しんし)に受け止めねばならない。原発に依存するエネルギー政策でいいのか、世界的な論議が必要だ。日本にはそれを仕掛けていく責務がある。

 

新潟日報2011617