社説:米金融街デモ 社会の分断なら危険だ
米ニューヨークで「反ウォール街」を掲げ始まった抗議デモが、拡大の様相を見せている。今月1日には約700人が逮捕される騒ぎとなったが、3週目の今も続き、シカゴやロサンゼルスなどニューヨーク以外の都市にも飛び火している。
カリスマ的指導者が存在するわけでもなく、参加者の要求もばらばらで、何を目指しているのかはっきりしない。保守派「茶会(ティーパーティー)」の対極となる強力な政治勢力に成長するか否かも現段階では不明である。とはいえ、来年の米大統領選挙や米国の対外政策に影響を及ぼす可能性はあり、注視したい。
抗議運動はフェイスブックやツイッターといったソーシャルメディアを経由し、若者を中心に賛同者が急膨張したようだ。「ウォール街を占拠せよ」との活動名が示すように、原動力となった怒りの矛先は、大手金融機関の経営者らに向いている。
リーマン・ショックから3年が経過したというのに、9%を下回らない失業率など、一般の人々の暮らしはいっこうに改善が実感されない。他方で窮状の原因を作った銀行経営者らは、重い制裁を受けることなく、引き続き富を占有している。政治に目をやれば、保守派が影響力を増した連邦議会は、「富裕層・大企業優遇」「福祉切り捨て」に傾斜し、オバマ政権も有効な解決策を打ち出せない--。そんな現状認識が人々の憤りを膨らませているようだ。
デモ参加者は必ずしも貧困層や失業者ではなく、街頭パフォーマンスなどお祭り的要素も見受けられる。合法的な抗議活動は、自由社会が価値を認めているもので、直ちに懸念の材料とみなすのも適切でない。ただ、茶会現象と今回の反ウォール街デモが、米社会の本格的分断の始まりであるとすれば、危うさをはらんでいて注意が必要だ。対立が深まり、対話による解決がより困難になれば、社会不安を招く可能性も決して排除できないからである。
日本を含め国外の者にとって最も心配なのは、米国が一段と内向きになったり、保護主義の傾向を強めたりすることだ。
議会上院が中国の人民元を念頭に置いた制裁法案の審議入りを決めた。対中批判は与野党が一致しやすい。「為替操作で米国の雇用を奪う国」として、左派、右派が中国を共通の敵に仕立て上げるような事態になるのなら要注意だ。制裁は新たな制裁を招き、米中関係の緊張のみならず、保護主義が世界的に連鎖するきっかけとなりかねないからである。
政治・社会の分断に勝者はない。オバマ政権も議会も、対話と国民への説明を通し、米経済の難局を乗り切ってもらいたい。