東日本大震災:9200人超、依然孤立 全容把握進まず 広範囲に点在、ヘリ捜索難航
東日本大震災の被災地では、多数の集落が外部との交通・通信手段を断たれ、判明しているだけで約9200人が孤立している。自衛隊や消防などは懸命の捜索・救助活動を進めているが、被害の全容はまだ分かっていないのが実情。宮城県災害対策本部は16日、上空と陸路から確認する活動を始めたが、広範囲に点在する孤立集落を発見・救助する作業は困難を極めている。【樋岡徹也、福永方人】 災害派遣では過去最大の約7万6000人態勢を組む自衛隊。救難ヘリ「UH60」や多用途ヘリ「UH1」などが、病院や学校の屋上などに避難して孤立した被災者らを次々と救助している。上空から孤立者がいそうな集落を見つけると、低空飛行に移り、津波の引いた後に残された家屋の屋上から助けを求める被災者がいないかを捜すやり方だ。
ただ、高齢者など救助を求めるサインを送ることができない人を空から見つけるのは難しい。漁業集落の孤立危険性を調査する漁港漁場漁村技術研究所の大塚浩二調査役は「小さな集落の公民館などに避難しているお年寄りたちが発見されていない可能性がある」とみる。
救助作業も簡単ではない。防衛省によると、被災地に派遣されているヘリは約190機に上るが、緊急時に備えて待機する機も必要なことなどから、実際に救助活動に入っているのは「半分にも満たない」のが現状という。
自衛隊幹部は「孤立地区が広範囲に点在している。ヘリの飛行時間は数時間。空中で被災者をつり上げるのに1人当たり10~20分はかかるので、救助が思うように進まない」と話す。病院の患者や老人ホームの入所者などを優先して救助し、救助を待ってもらう人も出ているという。
上空からの情報は陸上自衛隊の地上部隊にも伝えられ、地上からの救助のために走行可能な道路を探す作業に入る。輸送能力の高い大型車両が入れれば救助は進むが、倒壊した家屋のがれきや泥に救助活動を阻まれているのが実情だ。
このため自衛隊はヘリを使い、孤立集落に食料や毛布などの物資輸送を実施している。防衛省は「救助が間に合わない方々に生き延びてもらうため、まず物資輸送を続けていく」と話している。
防衛省は米軍への協力も要請している。米原子力空母「ロナルド・レーガン」が仙台市沖に停泊。艦載ヘリ2機と、自衛隊の補給艦「ときわ」のヘリ1機が、ときわに積んでいる非常用食料3万食を宮城県気仙沼市の五右衛門ケ原地区に運ぶなど、各地の被災地に運搬している。
大塚調査役は「孤立した被災者は情報が途絶しているため、自分は見捨てられているのではないかと考えがちで、精神的な不安が大きい。物資を輸送する際、わずかな時間でも地上に降りて被災者の手を握るなどし、『大丈夫』『必ず助けます』などと励ましてほしい」と話している。
孤立集落を巡る問題は、04年の新潟県中越地震でクローズアップされた。内閣府が05年に実施した調査で、地震などの災害時に孤立する恐れのある集落が全国に約1万9000もあることが判明。内閣府が設置した有識者検討会は05年、国や自治体に対し、集落への通信手段や非常用電源の配備、水・食料の備蓄などの対策を取るよう提言をまとめた。
だが、その後も対策はほとんど進んでいない。毎日新聞が09年に全都道府県を調査したところ、孤立の恐れがある集落のうち、地震時に有効とされる衛星携帯電話を確保していたのはわずか393集落。内閣府の05年調査時には277集落で、微増にとどまっていた。
毎日新聞調査によると、避難施設は68%の集落にあったものの、耐震性の十分な施設は17%、非常電源がある施設は2%にすぎなかった。いずれも05年時とほとんど変わっていない。
衛星携帯電話は1台当たり40万~60万円の設置費と月5000~2万円の維持費がかかる。牛山素行・静岡大防災総合センター准教授は「費用負担がネックになり、自治体は配備に二の足を踏んでいる。合併に伴って通信機材を減らした自治体すらある」と指摘する。
孤立集落は昨年10月の鹿児島県・奄美大島の豪雨でも発生した。内閣府はこれを受け、衛星携帯電話が必要な自治体全てに設置費の半額を補助することを決め、11年度予算に約2億円を盛り込んだ。東日本大震災が起きたのは、国がようやく対策を本格化させようとした矢先だった。
漁港漁場漁村技術研究所の大塚浩二調査役は「国が過疎地の情報インフラ整備を後回しにしてきたツケが新たな悲劇を生んだ。全国の集落を再点検し、早急に孤立対策を強化すべきだ」と訴える。