憲法改正論議 真正面から向き合う時

 

海洋進出の動きがやまない中国、核実験を強行した北朝鮮-。東アジアの平和と安定を揺るがす不穏な動きが顕在化する中、日本では自主憲法制定を党是とする自民党が総選挙で圧勝し、政権復帰。憲法改正が、より現実味を帯びて語られ始めている。

 

現下の改憲論議で特徴的なのは、あらゆる論点に先行する形で、安倍首相が憲法改正の発議要件を定めた96条改正の必要性に言及した点だ。1月末の国会答弁では「(改憲には)党派ごとに異なる意見があるため、まずは多くの党派が主張している96条の改正に取り組む」と明言した。

 

戦争放棄を定めた9条改正やプライバシー権新設など、改憲の論点は多岐にわたる。現職首相の国会答弁としては極めて異例な「改憲宣言」の背景には、当面の目標を96条に絞ることで個別の議論を避け、まずは改憲に一歩踏み出したい思いがにじむ。

 

96条は、衆参両院それぞれ3分の2以上が賛成すれば、国会は憲法改正を発議できると定める。自民党が昨年4月に発表した憲法改正案では、これを「過半数」に緩和するとしている。

 

これには伏線がある。2011年6月、当時の与党民主党と自民党などの有志議員が「憲法96条改正を目指す議員連盟」を設立。顧問には森喜朗、麻生太郎、そして安倍の歴代首相が名を連ねた。設立総会には両党のほか国民新、公明、みんなの党、たちあがれ日本に無所属を加え、約100人が出席。賛同者は200人を超えるとされた。

 

今や改憲容認派は各党に一定の数を持ち、逆に護憲勢力は減退。全体として保守派の伸長が鮮明な国会情勢では、改憲に向けてひとり自民党、あるいは安倍首相だけが突出しているとは言えまい。

 

集団的自衛権に関し、安倍首相は「新たな安全保障環境にふさわしい対応をあらためて検討する」と国会答弁。鈴木善幸内閣時代の1981年に打ち出された「保有しているが行使できない」という憲法解釈の見直しに言及したのも、超党派で醸成される改憲ムードに後押しされた面があるだろう。問題は、こうした動きが国民の意思と、どこまで通じているかだ。

 

先の総選挙で、自民党は改憲論を封印。経済対策を前面に訴え、票を集めた印象が強い。安定政権の確立へ、今夏の参院選は正念場。それは同時に、憲法改正に関わる議論の正念場ともなるだろう。

 

47年施行から66年。第1次安倍政権下で国民投票法が成立してからも、既に6年。憲法をめぐる政治情勢は、それを守るにせよ改めるにせよ、その課題や問題に国民が真正面から向き合う局面にあることを示唆している。