主権回復の日 改憲への地ならしでは(3月8日)
安倍晋三首相はきのうの衆院予算委員会で、4月28日に政府主催の「主権回復の日」記念式典を開くことを検討すると表明した。
1952年にサンフランシスコ講和条約が発効し、敗戦後の日本が7年ぶりに主権を回復した日だ。国として大切な節目であることは確かだ。
ただ、あまり議論になることのなかったこの日の政府式典を、首相が突然打ち出した背景に目を向けておきたい。
首相は予算委で「憲法も教育基本法も、主権を失っている期間にできた」と述べ、今の憲法が連合国軍総司令部(GHQ)による押しつけだとの持論に結びつけた。
「主権回復の日」を、首相が目指す改憲への地ならしにしようとしているのなら看過できない。式典を開くとしても戦争の反省に立つ日とすべきで、戦後の枠組みを否定するものにしてはならない。
自民党有志は2年前、主権回復の日を記念日にする議員連盟(野田毅会長)をつくった。議連は設立趣意書で「主権回復した際に、直ちに自主憲法の制定と国防軍の創設をすべきだった」と主張する。
議連は同日を祝日とする法案を提出したほか、講和条約発効60周年の昨年4月28日に記念集会を開いた。集会で当時の谷垣禎一自民党総裁は改憲の必要性を訴えた。
主権回復の日をめぐる動きは、同党が目指す自主憲法制定につながっているとみていいだろう。
だが、敗戦から7年間、GHQの占領下でも国会や内閣は存在しており、憲法や法律をみな「押しつけ」と決めつけることはできない。
旧憲法で軍国主義に走り、無謀な戦争に突入し、国民とアジアの人たちに惨禍をもたらした。その反省をかみしめながら、戦後民主主義の柱を打ち立て、国の再建を目指した期間でもあったことを銘記したい。
自民党は昨年の衆院選公約に、建国記念の日、竹島の日、主権回復の日に政府式典を開くと明記した。
政府が竹島の日式典を見送ったことが党内の保守派に不満を残したため、バランスをとって主権回復の日式典を開催するとの見方もある。
首相は「戦後レジーム(体制)からの脱却」を訴える。本会議答弁でも、憲法96条を改正し改憲要件を緩和することに意欲を示した。
政府式典も、改憲への一里塚にしようとする疑念が消えない。占領の7年や憲法の平和主義を否定的にのみとらえる式典なら賛同できない。
内容が偏れば、若い世代に間違った歴史認識を与えるおそれがある。
アジアの国々にも誤解を与えることがあってはならない。