米財政危機 世界の混乱回避へ歩み寄れ(7月28日付・読売社説)
米国政府の債務上限の引き上げを巡って、オバマ大統領と与野党の協議が難航している。
世界経済や市場の混乱を回避するために、歩み寄ることが求められよう。
米国政府の借金枠である連邦債務は、法律で定められた上限の14・3兆ドル(約1115兆円)に達している。
政府は8月2日の期限までに、議会から上限引き上げの同意を得ないと、新たに国債を発行できず財政資金が底をつく。公務員への給与支払いや、年金などの給付が滞る見通しだ。
時間切れが迫る中、警戒感が高まり、外国為替市場ではドルが売られ、円相場は約4か月ぶりに1ドル=77円台まで急騰した。
ドルリスクに伴う円急騰が日本の輸出企業の収益に打撃を与え、景気回復や震災復興に水を差す。憂慮すべき事態と言えよう。
米国の財政協議の焦点は、債務上限の引き上げ幅と過去最悪に膨らんだ財政赤字の削減である。
野党共和党は、ひとまず上限を1兆ドル引き上げ、年末までに赤字削減策を検討したうえで、上限をさらに引き上げる案を提示した。来年秋の大統領選に向け、揺さぶりをかける狙いだろう。
一方、与党の民主党案は、2・5兆ドルの大幅な上限引き上げだ。選挙前に問題を再燃させたくないという思惑がうかがえる。
事態が緊迫するのは、大詰めの協議が不調に終わった場合だ。
米国債の償還に必要な資金が賄えない債務不履行(デフォルト)に陥ったり、国債の格付けを引き下げられたりする恐れがある。
中国や日本政府のほか、世界の金融機関が米国債を大量に保有している。米国債の信認低下で価格が急落して損失が生じ、世界の株価が軒並み値下がりするような混乱が起きかねない。
危機を防ぐ責任は米国にある。大統領が指導力を発揮し、債務上限引き上げを実現することが期待される。与野党も政治ゲームを過熱させず、世界経済や市場の厳しい現実を直視すべきだ。
財政赤字の削減も課題だが、増税などの抜本的な財政再建策については、切り離して協議することが現実的な選択肢ではないか。
欧州では、財政危機が再燃したギリシャが欧州連合(EU)などに追加支援を仰いだが、危機封じ込めの展望は不透明だ。
先進国で最悪の財政赤字を抱える日本は、欧米の混乱を警鐘と受け止める必要がある。日本も財政健全化を急がねばならない。