エジプト危機―民衆が開く新しい歴史
カイロのタハリール広場がまたムバラク大統領の退陣を求める群衆で埋まった。強権に耐えてきた人々が声を合わせて「大統領は出て行け」と叫ぶ。
大統領の権威はすでに地に落ちた。まだ辞任を受け入れていないが、民衆はすでに歴史の新しいページをめくったと言っていいだろう。
エジプトは民意に基づいて政治を行う時代を開くために、改革を始めなければならない。ムバラク大統領が居座れば混乱が長引くだけである。あらためて、即時辞任を求めたい。
数日前に「大統領支持」を訴える人々が突然、大挙して街に出てきたのは異様な光景だった。
事態収拾に当たるスレイマン副大統領は、大統領派が民主派への投石などの混乱を引き起こしていることを非難し、厳しい措置をとると警告した。
大統領派と言っても、与党の国民民主党(NDP)が金を払ってかき集めた官製デモという見方が強かった。
そして副大統領の警告を受けて姿を消したことを考えると、やはり動員だったと考えざるを得ない。
NDPは選挙でも支持者を金で集めて、票を金で買っていることはエジプトでは広く知られた話だ。
そのうえに、警察を使って野党候補の選挙運動や投票を妨害する。その結果が、昨年11月の総選挙で議席の8割を超す一党支配の維持となった。
今回もNDPは、金権選挙と同じ発想と手法で民主化の動きをつぶそうとしたようだ。なんたる茶番だろう。
スレイマン副大統領は、約束通り真相を解明してもらいたい。さらに、昨年の選挙で野党側が出した不服申し立てを政府が検討することを約束した。出直しのために必要な措置だ。
ムバラク大統領に「ノー」を突きつける民衆には、民衆の声を金や力で曲げてきた政治への強い不信がある。
すでにNDP幹部や元閣僚の経済人が、出国禁止や資産凍結の措置を受けた。金権支配や腐敗の追及が始まっているのは、民主化運動の成果である。
強権支配を批判する動きは、イエメン、ヨルダン、シリア、アルジェリアなどにも広がりを見せている。支配が長引くとともに腐敗や人権抑圧が深刻化し、エジプトと同様に権力者の世襲が問題になっている国もある。
いずれも支配者や政府が、選挙への干渉で民主主義をねじ曲げ、権力側の意のままにしてきた国々だ。
いまの中東民主化が、インターネットのツイッターやフェイスブックを使う若者から始まったことは示唆的だ。
自分の言葉で意見や情報を交換する若者たちにとって、支配者の言葉を繰り返すだけの体制は、束縛でしかないとわかった。
それは人を縛り、国の発展を縛る。脱皮の時はとっくに来ている。