米原発着工へ/フクシマは真に語られたか

 

 福島第1原発事故の詳細な検証がないまま、ゴーサインが出されたに等しい。

 新型原子炉を採用した米国の原発建設と運転が認可された。米国内の原発着工はスリーマイルアイランド原発事故前年の1978年以来、34年ぶり。建設を担うのは東芝子会社。東芝は周辺機器を輸出する。

 「原子力ルネサンスの始まり」(独週刊誌シュピーゲル電子版)。今回の決定について、世界は大きく報じた。

 日立製作所はリトアニア政府と原発1基の建設で今夏の正式合意を目指している。三菱重工も仏原発大手アレバと組んでヨルダンでの受注を狙う。

 日本国内での原発建設が見込めない中、原子力産業界は海外受注に軸足をシフトしている。リトアニアの総事業費は4千億円程度。重厚長大産業は裾野も広い。

 民主党政権は福島事故後、国内で「脱原発依存」をうたいながら、その一方で野田佳彦首相は原発輸出の姿勢を鮮明にし、昨年10月にはベトナムへの輸出を確認した。

 反原発団体などから「二枚舌ではないか」と、批判の声が上がるのはもっともなことだ。

 電気事業連合会の八木誠会長(関西電力社長)は総合資源エネルギー調査会の基本問題委員会で「原発は引き続き重要な電源だ」と語った。新興国での原発拡大を背景に「原子力の平和利用を続ける責任がある」と、原発重視派もこれに呼応。福島事故後、鳴りを潜めていた「推進」の合唱が国内でも息を吹き返しつつある。

 エネルギー多様化を優先したい米国、ロシアからの天然ガス輸入を減らしたい東欧、二酸化炭素排出量を削減しなければならない中国、経済成長に見合う電力を確保したい新興国など、原発需要は依然として根強い。

 フランスのサルコジ大統領は、1977年に稼働した同国最古の原発を存続させる考えを示した。老朽化や立地問題から環境団体は廃止を求める。国民投票で脱原発派が圧勝したイタリアや、22年までの脱原発を決めたドイツの国境にも近い。原発問題は欧州連合(EU)内で葛藤を引き起こしている。

 福島事故について「人災ではない。天災だから日本は原発を輸出し、どんどん稼ぐべきだ」との論がある。11年の貿易収支が48年ぶりに赤字に転落し、輸出立国としての危機感も漂う。

 ただ、米原発認可をめぐっては、米原子力規制委員会のヤツコ委員長が公聴会で反対姿勢を打ち出す異例の事態となった。認可の条件として、福島事故を教訓にした新たな安全対策を電力会社が運転開始前に導入するよう求めたが、聞き入れられなかったためだ。

 福島事故の原因が未曽有の天災によるものだけでないことは、これまでの調査で明らかだ。相応の時間をかけても、徹底した原因究明と納得できる情報開示が求められる。

 このタイミングで原子力ルネサンスを語るのは性急すぎる。

 

20120223日木曜日