安倍首相来県/沖縄は「質草」ではない 犠牲の連鎖を断つときだ
2013年2月2日
安倍晋三さま。首相に再登板して初めての来県ですが、県民は冷めた目で見ており、いささか危ぶんでもおります。
今月下旬の訪米の前に、米軍普天間飛行場の辺野古移設に伴う知事への公有水面埋め立て申請をしたい。県内移設に向けた進展を証明し、それを米大統領への「手土産」としたい。そのためには事前に沖縄を訪問する必要がある。そんなアリバイづくりのための来県でしょうか。
そうであれば歓迎できません。沖縄はもう「質草」、言い換えれば米国へ良い顔をするために差し出されるだけの、モノ扱いは甘受しないと決めているのです。
岩国から移設
昨日の国会であなたは「沖縄の声によく耳を傾ける」と言いました。そのせりふを、歴代首相の口から何度聞いたことか。そう言いつつ、自分の聞きたい返事、「県内移設容認」の言葉だけを聞きたいのではないですか。
どうぞ正確に「声」を聴いていただきたい。そうすれば、沖縄はもう元には戻らない、県内移設を拒否する県民の民意は不退転だ、と容易に気付くでしょう。
垂直離着陸輸送機MV22オスプレイ配備撤回と普天間の県内移設断念、閉鎖・撤去を求めた県民大会実行委の文書は「建白書」と銘打ちました。時代がかった呼び名には壮絶な犠牲の歴史を踏まえた県民の決意が込められています。
建白書には県議会議長をはじめ県内の全市町村長、全市町村議会議長、各種団体の長の署名・押印がなされています。その重みを知るべきです。
オスプレイは県民総ぐるみの反対の中、強行配備され、それを民主党政権は容認しました。あなたもまたそうするのですか。
辺野古移設も昨年の世論調査で県民の9割が反対しています。昨年の総選挙でも県内4小選挙区で当選した人全員が反対です。それなのにあなたは選挙後早々「名護市辺野古に移設する方向で努力したい」と言いました。
民意をくみ取らないどころか、民意なきに等しい扱い、「政治的無人島」と呼ぶべき扱いです。
ご存じですか。普天間飛行場に駐留する海兵航空団は1976年にあなたの地元・山口県の岩国市から移転してきました。米軍統治下でもない、復帰後のことです。
昨年、米国は在沖海兵隊の岩国への一部移転を打診しましたが、日本政府は即座に断りました。本土から沖縄へはいとも簡単に移設してくるのに、逆は断る。これは明らかな差別ではありませんか。
差別でないと言うのならぜひ証明してほしい。逆を実行できない限り、証明はできないでしょう。
力で押し切る
全国の政官界・メディアの中には、沖縄の抵抗は振興策目当てだとの見立てを語る人がいます。
あなたの官邸スタッフである飯島勲内閣官房参与は、かつて小泉純一郎首相(当時)の政務秘書官として、現行の辺野古移設案を決めた守屋武昌防衛事務次官(同)と深く通じていました。その守屋氏は著書で、沖縄の抵抗はカネ目当てだという趣旨を繰り返し述べています。あなたもまたそう見ているのなら、大きな誤りです。
新幹線を整備する他県に、政府がその見返りとして米軍基地移設を求めた例はありません。沖縄には求めるとすれば、それは差別にほかなりません。
近年、「沖縄は力で押し切るほかない」という主張もまた、半ば公然と語られるようになりました。沖縄だけには民主主義を適用せず、民意を踏みにじるのなら、それがあなたの言う「取り戻す」べき日本の姿なのでしょうか。
所信表明演説であなたは「日米の絆を取り戻す」と言いました。沖縄を犠牲にして維持を図る「絆」が砂上の楼閣なのは明らかです。本当に日米関係を大切にしたいなら、沖縄の犠牲の連鎖を断ち、基地を含め、持続可能な日米関係の形を模索すべきなのです。