【衛藤氏発言の底流】 くすぶる対米不満 靖国批判で安倍政権
コメントを書く コメントを読む(1)
安倍晋三首相の靖国神社参拝を批判した米政府への不満が安倍政権内でくすぶっている。衛藤晟一首相補佐官の対米批判発言をめぐる騒ぎは衛藤氏自身が「撤回」を表明したことでいったん沈静化したものの、政権関係者の言動からは「オバマ政権は対日批判を強める中国と韓国に肩入れしすぎている」との本音が透けて見える。米側から「失望」声明を突き付けられた首相自身も内心穏やかでないのは明白だ。4月のオバマ大統領来日までにわだかまりを解消できるか見通せない。
▽恨み節
「オバマ氏はあまりにビジネスライクだ。個人的な関係を築くのは、なかなか難しい」。首相は最近、オバマ氏との肌合いの違いを周囲にこうこぼした。2012年12月の安倍政権発足後、首相がオバマ氏と正式会談したのは2回だけで、日本政府筋によると、いずれも実務的なやりとりに終始した。日米関係筋の一人は「堅固な同盟関係に欠かせないのはトップ同士の友情と信頼関係だがオバマ氏は全く意に介さない」とため息をつく。
そのオバマ政権が首相参拝直後に「失望」声明を発表したことで、日米分断を狙う中国の対日非難は一段と勢いづき、日本国内の世論も安倍政権批判を強めるなど逆風にさらされた―。首相周辺に漂うのは、こうした「恨み節」だ。
▽先行投資
対日外交への関心が薄いと指摘されるケリー米国務長官への不信感も募る。ケリー氏は今月、歴史認識や領土問題で日本と対立する中国と韓国を歴訪。日本を素通りする形での中韓訪問に「日本軽視の印象を与えてしまう」(官邸筋)との声が漏れた。
オバマ民主党政権への複雑な思いは、次期政権を狙う共和党への期待感の裏返しでもある。1月21日、首相は共和党のルビオ上院議員の表敬を受けた。米国の若手議員との面会は数分程度が相場とされるが、首相は約30分にわたり当選1回議員のルビオ氏と歓談。狙いは「次期大統領候補の一人に数えられ、対中強硬派で日本への共感を示す同氏への先行投資」(外務省筋)だ。
▽異口同音
だが米国を正面から批判し日米摩擦を引き起こせば、歴史認識問題で米国を味方に付けたい中国の「思うつぼ」にはまりかねない。人民日報傘下の「環球時報」(電子版)は今月21日、米国への「失望」を口にした衛藤氏の発言を取り上げて「首相の腹心による対米批判が日米世論に衝撃を与えた」とあおり立てた。
神経をとがらせる安倍政権の関係閣僚は21日の閣議後記者会見で「首相は日米同盟を非常に重視している」(山本一太沖縄北方担当相)、「日米関係は一番重要な同盟関係だ」(古屋圭司拉致問題担当相)などと異口同音に強調。反米に転じたとの誤ったメッセージを国際社会に与えないよう躍起になった。
もっとも、1月中旬には自民党の萩生田光一総裁特別補佐が会合で、米国の「失望」声明に関して「共和党政権の時代にこんな揚げ足を取ったことはない」と発言。首相周辺が抱くオバマ政権への不信感は隠しようもなく、あつれきが再び表面化する公算は大きい。